想像を思いきりかきたてられた「あとは切手を、一枚貼るだけ」

 「博士の愛した数式」で有名な小川洋子さんと、フランス文学者で個性的な随筆や小説を書いている堀江敏幸さんの本です。
それぞれの作家が手紙をやり取りするような形式で書かれています。
男女二人が交わす手紙の内容は全く個人的な話が中心で、最初は「二人の関係はどうなのか」や「何か起こったのか」と言ったことはさっぱりわかりません。
ただ二人の手紙を読んでいくうちに、二人の関係や二人の間に今まであった事などが、その言葉の端々からうっすらと見えてくるような気がします。どちらの作者も少し不思議な文体や作風が持ち味の作家なので、その雰囲気を目いっぱい出した文章と構成になっていると思います。
純文学の様でもあり、ミステリーの様でもあり、恋愛ものの様でもあり・・・。いろいろな楽しみ方のできる一冊です。
またそれぞれの手紙の中にはたくさんの芸術家の名前が出てきます。
自分で空想する国を作って、その国で発行される切手を精密に作り上げている芸術家や、小さな箱の中に絵を描き続けている作家、絵葉書の大きさの作品を作り続けた画家など、今まで知らなかった芸術家の名前がたくさん出てきます。
しかしそれらの芸術家についての説明は一切なく、手紙の中でほんの少し語られるだけです。
けれどもその芸術家たちの作品についての語りが何やらとても気になり、ついつい自分でその芸術家たちを調べてたくなってしまいます。

 読み物としての素晴らしさと共に、たくさんの新しい出会いも教えてくれるような、ちょっと贅沢な一冊です。